靴下編みをするようになって、まだまだ未熟な点は多いのですが、
手編みの靴下が一足、また1足と出来上がる喜びはとても大きく、その度に学びがあります。
なぜ編み物の中でも、靴下を編むようになったのか?
それは、ある高齢者の方との出会いがきっかけでした。
この出会いがあったおかげで、私は靴下編みに興味を持ち、
初めての靴下を編むことができました。
そして今もなお、靴下編みを楽しむことができています。
今も忘れることのない大切な思い出です。
クリックできる目次
手編みの靴下との出会い
Aさんと触れ合う時間
当時ケアマネで担当させていただいていた、
高齢者の方(以下、Aさんとさせていただきます:偽名)の訪問をしていた時のことでした。
Aさんはとっても朗らかで優しい方。
いつも私が訪問すると笑顔で「待っていたのよ」とあたたかく出迎えてくれます。
その優しい笑顔に会えるのが嬉しくて、多忙な業務を頑張らせてくれるエネルギーになるような、
貴重な時間でした。
手編み靴下との出会い
そしてある日、私は発見してしまったのです。
その方が、とても温かそうな可愛い靴下を履いてらっしゃることを。
当時は、まだかぎ針編みで「アクリルたわし」を編むのを楽しんでいた初心者でした。
そんな私でも、棒針で編んだ靴下ということはすぐにわかりました。
業務的な内容を素早く終わらせて、帰り際に尋ねました。
「Aさん、履いていらっしゃる靴下は、ご自分で編まれたのですか?」
手編みの靴下を編む喜びを教わる
Aさんは照れ臭そうに答えてくださいました。「そうなのよ。すごくあったかいのよ〜」と。
そして、並太毛糸を引き揃えて、7号8号で編んでいるのだと、その靴下の編み方を簡単にわかりやすく説明してくださったのです。
当時まだ棒針編みに疎かった私でも、なるほど!と思えるほどわかりやすい説明で、
みるみると「靴下編み」に興味が湧いていきました。
Aさんにとっての手編みの靴下の存在
そして、お孫さんなどをはじめとしたご家族の方に毎年毎年編んでいるのだということも、とても嬉しそうに話してくださいました。
毎年編んで欲しいとリクエストもあるのだと教えてくださいました。
手編みの靴下は、Aさんと離れたご家族とをつなぐ「架け橋」のような存在だったのです。
オンリーワンの手編み靴下
その靴下は、みているだけで、本当にあったかそうでした。
何よりもその風合いは、今までみたこともないほどの、オンリーワンだったのです。
引き揃えて編むということも、その靴下を見て初めて教わったことでした。
あの時、写真を撮らせてもらっておけばよかったなぁと悔いました。
ですが今でも忘れることはありません。
高齢者の編み物による効果
Aさんの日頃の過ごし方、そこからみえる健康状態を確認するのが私の役割の一つです。
私とAさんは、編み物の会話をするようになりました。
ですがそれは私が趣味の話を一方的にしているのではありません。
色々話を聞いていると、その方が編み物をされていることで現状を維持されていることが自ずとみえてくるのです。
編み物の効果を感じずにはいられませんでした。
編み物の効果による痛みの緩和
詳しくは記載できませんが、体に疾患を抱えておられ、痛みがある中でも、
Aさんは編み物をしていると「痛みが紛れるのよ」そんな言葉も聞かれるようになりました。
痛みがひどい時は、痛み止めを飲まないと治らない状況の時もありましたが、
編み物をしている時間は、その痛みが安らいでいるのです。
まさに編み物セラピーの効果を感じることのできた瞬間でした。
高齢者の方は複数の疾患を抱えておられることが多いのですが、
Aさんの場合は、痛みの緩和に編み物の効果が有効だったと思われました。
指先の運動と思考による、脳の活性化
また、編み物は手先を使いますし、何段編んで次はこうして、と頭も使います。
Aさんは、75歳以上の後期高齢者でしたが、認知症はありませんでした。
物忘れも年齢相応もないくらいに、とてもしっかりされていました。
元々のパーソナリティや暮らし方の丁寧さなどもあると思いますが、
編み物により手先を動かすこと、それは脳の活性化につながります。
Aさんの記憶力にも、編み物の力が関与しているのではないかと思っていました。
そしてAさんは自分の体のことを理解しており、
ご高齢だからこその編み方、というのをとても工夫されておられました。
高齢者ならではの編み方の工夫
高齢者が老眼でも編める工夫
老眼で目が見えなくなってきても「7号や8号で編めば、スイスイって編めるのよ」
とおっしゃっていました。
本来靴下編みはソックヤーン という中細の毛糸で、1号から3号くらいで編むのが主流かと思います。
視力低下を否めない高齢者の方は、徐々に細かい目を追うことなどが厳しくなってくる状況の中、
メリヤス編みをしても「編み目」が見えやすい7号や8号を使って編む。
その当時は、棒針編みの知識も少なかったので、
私にとっては大変学びとなりました。
ゆっくりと無理をせずに日中に編む
生活状況や体調を確認していく中で、
「昼間の明るいうちにしか編まないし、疲れたら休むようにしているのよ」
と休み休み編まれていることを教えてくださいました。
Aさんの話を聞いていると、常に自分の病気と向き合っているのが伝わってきます。
Aさんならではの、無理をされない編み物の仕方がそこにはありました。
これまでの長い編み物歴、そして病歴。
そこから工夫をされ知恵がうまれ、自分にあった生活の仕方を実現されている様子が伝わってきます。
編み物の話をしている時のAさんの表情がいつもに増して生き生きしていることも感じました。
そのことは聴いている私にも伝わり、相乗効果をもたらしました。
手編み靴下編みへの挑戦 【職場で編み物をするようになった】
手編み靴下を編み始める
その後、私は靴下編みをすぐに始めました。
ちょうどオパール毛糸というソックヤーンがあったのはラッキーでした。
ヴォーグ学園の編み物コースに参加した時のあまりがあったのです。(→現在ヴォーグ学園講座受講中)
初めての靴下編みで、無謀にも1号という細い輪針を入手し、靴下専用の本を購入し夜な夜な編み始めたのです。
Aさんにみていただきたくて編めたという報告がしたい、その想いで夢中で編みました。
▶︎▶︎▶︎靴下編みの本についての記事
職場の休憩時間も編み物の時間として有意義に使う
普段は仕事が終わるとクタクタになってしまい、
帰宅しては食事も食べずに眠ってしまうこともざらにあります。
それだけではなく、大好きな趣味に手を出せずに
ぼーっとして疲労に襲われている日々でもありました。
また、職場での「昼休憩」は職場のストレスから解放されるため、
まったりと好きな音楽を聞いて過ごしたり、
ちょっと仮眠をしたりして、「体も心も休める」時間でした。
一見、編み物をすると疲れるのでは?なんて思ったりもするかもしれません。
そんな貴重な昼休憩も、休憩室で一人、編み物をするようになりました。
私自身も編み物により癒されていた
「なんて心地よく充実したお昼休みなのだろう。」
そう、私にとって、疲れと編み物は別だったのです。
まさに、私自身も「編み物を通して癒されていた」のです。
多少の疲労感があっても、「編み物」という時間は特別な時間でした。
病的な疲労や体調不良があるときは、さすがに何もすることはできません。
しかし、仕事に行くことができているという一般的な健康な状態において
「靴下編みを克服したい目標、Aさんに手編みの靴下をみてもらいたい希望」
これらは、疲労を超えて私を「快適な編み物の世界」へ連れて行ってくれました。
こうしたAさんとの出会いの中で、編み物のパワー・編み物の効果を実感していく様になりました。
形になっていく手編みの靴下は練習あるのみ
そして日に日に形になっていく靴下。
つまさき→そして踵。
こうやって編むんだな、初めての編み方、初めての形、そんな新しい発見をしながら全てが学びでした。
最初の毛糸の模様の出方が気に入らなかったり、うまく編めなかった部分などは、
自分が納得しするまで、何度も編み直し、ほどくことの意味も考えることができました。
失敗してもやり直せる、それが編み物のとってもいいところの一つですね。
靴下が編みあがった瞬間をイメージしては、
Aさんに報告できる時の笑顔が思い浮かべ頑張りました。
そして、その日はやってきました。
靴下が完成した時の喜び 【自分も感じた編み物の効果】
初めての手編みの靴下完成
ついに靴下が完成したのです。
と同時にこの後すぐに、Aさんへの訪問日がやってきます。
もちろん、編めたばかりの靴下を履いての出社です。
仕事なのに、私の足元は「可愛い」のです。
なんて幸せなのでしょう。
(編み物バカですみません)
同僚の人たちに、「今日可愛い靴下履いてるね、どうしたの?」って聞かれたりしたらどうしよう。
・・・そんな自意識過剰になるくらい(笑)でした。はい。案の定、誰も私の足元なんてみていませんでした(笑)
手編みの靴下の効果
仕事中でも手編みの靴下を履いていることの喜びを感じていられることは、
私にとって編み物の時間は、人間関係や職場のストレスを軽減させてくれることに値しました。
これもまた、編み物の癒しの効果だったと思います。
初めて編んだ手編みの靴下
こちらがその時初めて編んだ手編みの靴下です。
初めての靴下はちょっと緩めで、たるんでいました。
今覚えば水通しということを知らなくて、嬉しくてそのまま履いていました。
今では、靴下の水通しの記事を書くくらいに、一応それなりに成長していますま😅
少しだけ裏話をすると、色々な在宅があるため、靴下は汚れてもいい靴下を履いて行った方が良いのが本音なのですが。
Aさん宅はとても綺麗にされていましたし、フローリングでスリッパも出してくださっていたので、可愛い靴下を履いて行けたのです♪
訪問日の忘れられない笑顔
手編みの靴下お披露目の日
訪問時、いつも通り、部屋にあがらせていただき私はいつ披露しようかとソワソワしていました。
早く報告したい胸の内を堪えながら、しっかりと業務だけは果たします。
そして帰り際のちょっとした時間に、雑談タイムです。
Aさんに手編みの靴下を編めた報告をする
「Aさん、みてください。靴下、編めました!」
小学生のようにルンルンしていたと、自分でも良く覚えています。
Aさんは、とてもびっくりされました。
「細い毛糸でよく編んだね!○○さん、根気あるねー。すごい!」
今でもその時のAさんの満面の笑みと驚いた表情は、脳裏にしっかりと焼きついています。
「Aさんが、手編みの靴下の温もりを教えてくださって、私に興味をもたせてくださったからです。
ありがとうございました。私にも編めました」
私は年甲斐もなく、泣きそうなのを必死で堪えていました。
幸せなひと時
人の表情が嬉しい笑顔に変わる瞬間を、
シャッターをコマ送りに撮影するかのように感じた、
まさに、とても幸せな一時でした。
毎年秋冬になると思い出す
その後のAさんとの関わり
現在、Aさんの訪問には行きたくても行けなくなってしまいました。
Aさんの生活をもっと見守っていたかったのですが、やむを得ません。
Aさんお元気にされておられるでしょうか?
今でもまだ、毎年ご家族に編んでおられるでしょうか?
手編みの靴下を編むときに思い出す。
私は、その後色々な編み物にチャレンジし、資格も取りながら小物から大きなものまで編める様になりました。
まだまだ勉強不足な点はありますが、そのなかでも靴下編みは色々な編み方があって楽しい分野です。
編みたい時に靴下編みを楽しんでいます。
「今度はどんな靴下を編もうかな」
そして同時に思い出すのです。
優しかったAさんの笑顔
ちょっとナマリのある話し方
足を引きずりながらも日々、頑張っておられたこと
いつも包み込んでくれるように出迎えてくれたこと
初めてみた並太で編まれたオンリーワンの靴下
私の編んだ靴下をみたときの驚いた表情と満面の笑み、
褒めてくださった言葉
Aさんのおかげでマスターできた靴下編み。
感謝の気持ちとともに、今日もきっと頑張っているだろうAさんの笑顔を思い出しながら、
私はこの先もずっと、手編みの靴下を編んでいきたいと思っています。
今年の手編み靴下の季節
靴下を編みながら思い出す
今年も、手編みの靴下の季節がやってきました。
今季は2足か3足は編めたらいいなというのが目標で、先月から編み始めています。
・Aさん、私、その後も元気に編み物続け靴下編みも楽しんでいます。
Aさんも靴下編みされていますか?今年もご家族にあまれていますか?
Aさんと関わることのできた貴重な日々、そしてAさんの太針で編んだオンリーワンの手編みの靴下を思い出しながら、
私は今日も手編みの靴下を、コツコツと編んでいます。
まとめ
身体機能の衰えは誰もが通る道。
少しずつ身体機能が低下していっても、現在ある機能を活かした生活リハビリができ、生活の質を維持・改善することにつながります。
高齢者の方にとって、長年親しまれている手芸は、その人の人生の質をより高めてくれるリハビリにもなることを間近で色々経験してきました。
手芸、そして編み物、その効果は身体状況や生活環境、生きてこられた人生、価値観などお一人お一人で違いますが、
これからも、高齢者の方々への関わりの中で、その方にとっての手芸の編み物の意味や効果を発見し、
それによってその人の人生の質がキープされるような、そんな関わりを継続していきたいと思っています。
最後までお読みいただきましてありがとうございました。
▶︎▶︎▶︎この手編みの靴下から、歳月は流れ「猪谷さんの靴下」で引き揃えの手編みの靴下を編むことができる様になりました。
-
猪谷さんの靴下、ハプニングを乗り超えて無事完成!
続きを見る
▶︎▶︎▶︎靴下の編み物本のまとめ
-
初心者さんにおすすめ♪手編み靴下の編み方本 【厳選7冊:ブックレビューあり】
続きを見る
▶︎▶︎▶︎引き揃えで編む靴下
-
猪谷さんの靴下その後【暮らしの手帖 2010年45号&2021年12月15号の比較レポ】
続きを見る
▶︎▶︎▶︎マルティナさんの靴下キット。
-
マルティナさんの「靴下キット」で編んだ靴下の記録
続きを見る
▶︎▶︎▶︎編み物の効果の詳細
-
【編み物セラピー】編み物による心身及び脳への健康効果
続きを見る
▶︎▶︎▶︎高齢者の方の編み物作品
-
70歳で座布団編みに挑戦 〜高齢者の成功体験と編み物の可能性〜
続きを見る
▶︎▶︎▶︎靴下編み記事一覧
▶︎▶︎▶︎靴下を編んでいます動画
ご覧いただきまして、ありがとうございました。